ある日、爆弾が落ちてきて
- 作者: 古橋秀之,緋賀ゆかり
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2005/10
- メディア: 文庫
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ある日、爆弾がおちてきて
表題作。一番イメージに溢れた作品。禍々しく美しい破滅の誘惑と猥雑な生、過去と現在、そういった対比がなんども描写される。そのコントラストがいい。
いやしかし、破滅の誘惑に繋がる主人公の未来への不安が、予備校二年目成績振るわずという以上に、
「オレ、将来ハゲるよ」
ここなのが笑いを誘う。当事者にとってこれほど切実なこともないだろうけれど。
多分この主人公は、あのとき、キスをしていたら、あるいは
「だから、今キスとかすると、きっと甘いよ」
そのときに、踏み込んでいたら……と後々、考えるだろう。懐中時計を見つめながら。
そしてそのたびに、薄くなった髪をくしゃくしゃとかき回されて、我に帰るのだ。
おおきくなあれ
お幸せに、という感じ。
しかし、子供時代の自分の人格を知られてしまうというのはかなりきつい体験なんじゃないかなあ。仮面を剥ぎ取られて内臓をじかに見られているような。
恋する死者の夜
毎夜、観覧車のループの中で「あの日」を繰り返す自罰的な行為。ゆっくりと円を描きながら徐々に停止していくイメージ。終着は死か狂気か。
これと「ある日、爆弾が落ちてきて」あたりは、ある種の誘惑と多少なりと向き合ったことのある人にはなかなか味わい深いんではないかと思う。
しかし、黒いなあ、古橋だなぁ、とか思っていたら元ネタがなんかすごいらしい。笑った。
参照:古橋秀之「ある日、爆弾がおちてきて」(電撃文庫) : 酔狂ブログ(片仮名)
トトカミじゃ
トトカミさまがかわいい。他にいうことがない(笑)
出席番号0番
案外、笑えないのは前エントリのとおり。
彼/彼女はクラスの解散と同時にいなくなってしまうのだろう。もともとあちら側に存在する誰かとの、つかのまの交流という気もする。ま、同窓会のときにひょっと戻ってくるかもしれないけど。
三時間目のまどか
これ、似たネタの映画を見た覚えがあるんだよなぁ。アメリカの映画だったと思うが。
過去、両親(父は消防士)が殺されてそのために警官になった主人公。なぜか過去の父親と無線が通じるようになり、過去の父親と協力して問題の事件を……という。結果としてタイムパラドックスが炸裂して死ななかったことになるのも同じ。しかしタイトルが全然思い出せない(誰か知ってたら教えてください)。
※映画のタイトルはhttp://www.gaga.ne.jp/aurora/ですね。id:crea555さんに教えていただきました。
で、本作は、限定された通信手段で、遠くの誰かと心を通わせるお話。どうもそういうのには弱い。そしてヒロインのまどかさんがなんだかかわいいので、出会ったところで終わってしまうのが残念なぐらい。
むかし、爆弾が落ちてきて
モチーフ的にはブラッドジャケットの、停滞時間の中のミラ・ヘルシングとよく似ている。時間の井戸の底へと落ちていくのが薔薇から人間にスケールアップしているが。
これのじいさまにせよ、ヘルシング教授にせよ、恋する死者の夜の主人公にせよ、自分の罪の証と向き合い続ける自罰なモチーフはたまに登場するような。あと、美人は彫像にして飾っておけ、とかそういうネタが出たのは銀河鉄道999だったかなぁ。
お話は、なんというか。少年の勇気に幸アレ。
総評?
短編集のわりに妙に満足度が高かった。小品だが美味。古橋秀之には、ゲテモノで大作で絶品なものを期待してしまうのでなんとなく読まないで一年もほったらかしにしてしまったのだが、こういう方向でも勝負できるのかもなあ、といまさらながら。
あちこち感想を見て回ったけれど、技巧的な部分で褒めてる人が多いなぁ……ソツのなさ=上手さなんだろうか。いまいちよくわからない。
あと、イラストは全般に良いのだけれど、表紙だけなんか違う。爆弾と少女って表題からお題をとったんだろうけど、テーマである時間SF短編集であることを盛り込まないのはなんだかなぁ。