ジョン平とぼくと…の感想

ジョン平とぼくと (GA文庫)

ジョン平とぼくと (GA文庫)

結構肯定的な評価が多い、匿名日記とか。
読売新聞とかでまで取り上げられてるけど、正直、ナンというか、ひさびさに読んでみて引っかかってしまった作品なので、感想だかレビューだか書いてみる。


キャラ造形はよい。レトリーバーはおとぼけで可愛らしいし、主人公のしげるは、魔法が主となる世界で魔法が苦手であり、そのため(だけではないだろうが)に世の中から一歩引いている。自分が前に出て行って主役になってやる、とは考えないタイプで、主役としてはあんまり見ないし扱いづらいと思うが、青少年向けにはいいキャラなのではないだろうか。
社会や世界に懐疑的で、それらとかかわりあうことに引っ込み思案な少年であり、彼がどのように世界と関わっていくのか、その部分での成長物語を書く気なのだろう。だとすれば、今の社会状況的にはタイムリーであろうから、テーマ的にはかなり期待が持てる。


世界設定は、まあ、いいんではないか。結構面白い。ただし世界設定そのものがネタになるほどにはインパクトが強いわけではないし、この世界設定をもってなんらかのテーマを問う、という作品でもあるまい。そのわりに世界設定への頻繁な注釈が入るので、読み進めていくうえでちと邪魔な印象はある。


問題は物語のほう。作品に「良質のファンタジー」的な雰囲気と評判がついて回っていたので、物語にこそ期待していたのだがちぐはぐな印象が。この作者、ストーリーテリングはあんまりうまくないんじゃないの。
まず、日常に即したほんわかファンタジーと、社会の裏側に突入しちゃって大活劇の今風ライトノベルはてな界隈で言うなら学園異能か)のどっちがやりたいのかがわからん。
幼馴染との魔法の特訓から、犬との登校へと続くほのぼのした導入を眺めていると、いつのまにか魔法ミステリになっているのだ。しかもどう見ても主人公の手には負えないレベルで事件化してしまい、陰陽庁だの寧先生だのといった社会の裏側のシロモノが出てきてしまう。
この、“日常”と“社会の裏側”の接点があまりにも無造作に設定されていて、違和感が大きいのがズッコケの第一。
第一に関連するけれど、“主人公にとっての重大事件(失恋)”と、“物語上の中心事件(使い魔行方不明事件)”のクライマックスがイマイチ相関しないのがズッコケの第二。主人公の心情的な盛り上がり(盛り下がり)と、お話的な盛り上がり(事件の解決)が別個のところにある。これも前者が“日常”の事件であり、後者は日常から離れた“社会の裏側”に半分足を突っ込んだ事件で、ここで分断されている印象が強い。


そんなわけで。
この人どっちが書きたいのよ、という疑問がわく。キャラクターや世界設定、そしてテーマからは日常に則したファンタジーを期待させるんだが、魔法ミステリだかのような、日常性から乖離した裏社会な展開が混ざりこんでいて中途半端。かといってこのキャラクター造形で裏社会な事件に関わり続けるのも無理があると思うのだが……そのあたりのどっちつかず感のせいで、ものすごくすわりが悪い。
特にテーマが前述のとおり、「社会とのかかわり方を軸とした少年の成長」にあるのなら、いかにもなライトノベルのような、世界の裏側に首を突っ込んじゃって冒険をする、という筋立てが向いているとは到底思えない。どうしてこの世界観とテーマで、「日常のちょっとした事件」を扱うお話にしなかったんだろうか。
そのうえ続刊も、やっぱり社会の裏っかわに行ってしまっているらしい。(未読)
なんというか、読み方に困る、(俺の目からは)ちぐはぐでスジの悪い作品に見える。


…あ、似たような感想もってる人がおった。
大西科学「ジョン平とぼくと2 ジョン平と去っていった猫」を買ってきた(ネタバレ)

魔法ミステリ/高校生探偵として楽しめば……うーん、世界設定自体が作者の頭の中にある魔法世界でそれは難しいんじゃないのかなあ(苦笑)
オチが思いつけるか否かという以前に、魔法世界であるという時点で、事件の裏側を推察するというようなミステリ的な読み方自体を放棄してしまっていたし。
しかし、テーマが社会との関わり方にある、と思った見立ては間違ってたんだろうか。うぅむ。